③『たからもの』(特別寄稿:大平光代)

娘が小学4年生のころ、当時通っていた小学校で「二分の一成人式」が行われました。川下は仕事の調整をつけてこの二分の一成人式に出席してくれました。

子供たちが一人一人将来の夢などを語った後、それぞれの親子が向き合って、親が事前に子供宛に書いていた手紙を読むことになりました。川下は娘の前に座り、娘が理解できるよう、ゆっくりと手紙を読み始めました。

 

「悠ちゃん、二分の一成人式おめでとう。この日をむかえることができて、お父さん、お母さんも、とてもうれしいです。生まれたばかりの悠ちゃんは、オギャーと声をあげて泣くことも、自分の力でミルクを飲むこともできませんでした。大きくなって歩くことができるようになるのか、お話をしたり、笑ったりすることができるようになるのかわかりませんでした。それでも悠ちゃんは、いっしょうけんめい生きようとしていました。小さなからだで、大きな手術を頑張りましたね。そして、ひとつひとつ、困難を乗り越えてきましたね。お父さんも、お母さんも、そんな悠ちゃんから、あきらめずに頑張るということを教えてもらいました。悠ちゃんから、楽しいこと、嬉しいことたくさんもらいました。その中でも一番うれしかったことは、悠ちゃんに、はじめて、お父さん、お母さんとよんでもらえたことです。悠ちゃんは、お父さんと、お母さんの宝物です。悠ちゃんがいてくれるだけで、お父さんとお母さんは幸せです。悠ちゃん、生まれてきてくれて、本当にありがとう。

お父さん、お母さんより。」

 

途中から涙声になりながらも最後まで手紙を読む父親の姿を、娘はじっと見つめていました。川下は仕事のためそのあと大阪に向かいましたが、手紙の内容を娘がちゃんと理解できたかどうか気がかりのようでした。

その日、娘は「二分の一成人式のふりかえりシート」というのを持ち帰ってきました。その中に授業で一番嬉しかったことという欄に「お父さんとお母さんから手紙をもらったこと。私のことを宝物と言ってくれたからです」と娘の文字でしっかりと書かれていました。すぐに川下に電話で伝えると、返事のかわりに鼻水をすする音が返ってきました。

2019年7月4日 17時00分